L 59cm × W 36cm , 19世紀後半から20世紀初頭
台湾原住民の盾は東南アジアの南島民族の盾器の一環で、陳奇禄教授の分類によると、台湾原住民の盾のうち、ヤミ族のものは「平板型」に属し、アミ、パイワン、ブヌン、ツォウ族のものは「屋頂型」に属します。パイワン族の屋頂型の木盾は細工が細かく、世に伝わっているものの多くは貴族が所持していたものです。色合い、絵柄、浅く彫った人の頭の模様、ヒャッポダ、幾何学模様、動物の文様などはパイワン族が貴い装飾模様と見なしたもので、多くのデザインはシンメトリーを成しています。「充填」の効果も顕著で、戦闘に際しての護身用のほかに、大切なお祭りのなかでも用いられるなど、貴族社会の身分を示すものとなっています。
この木盾は長方形で、二枚の木板の中央を藤篾で山形(屋頂型)に接合しています。裏柄には木の横の取っ手がつけられ、左手で持つようになっています。表面の彫刻部分は黒く塗られ、立体効果を生んでおり、中央に四人の頭の模様が環状に配され、頭髪が外に向かって半円の同心円状に伸びています。盾の表面中央の四角状のものは、ヒャッポダの紋様が変化した複式曲線紋で、盾表面の上下の縁には鋸状の紋様が配されています。図案は整って細かく、環状の人の頭の模様や複式曲線紋の效果は特に珍しいものです。東南アジアの南島民族のなかにも、獰猛そうで目を引く敵の戦意を削ぐことを意図したような彫刻を施した木盾が見られますが、パイワン族の木盾の装飾模様にも、似たような意味が込められているのかもしれません。しかし貴族制度と祖先信仰が結合していることから、貴族社会の権威としての作用も同じくらい重要なのかもしれません。