台湾北部の北投(ほくとう)地区の地熱谷は、有名な温泉景勝地です。その温泉の水源は台湾北部の大屯火山群の地熱活動によるもので、温泉の水は大屯山の西南方から流れ出して北投渓を形成しています。西暦1905年の日本統治時代、当時の台湾総督府技手だった岡本要八郎が、北投渓中の礫石の表面や隙間に温泉が沈殿してできるラジウム元素の鉱物結晶を発見しました。
1912年、日本の東京帝大の神保小虎教授がロシアの首都サンクトペレルスブルクで開催された国際鉱物会議の席上、この鉱物の標本を展示するとともに、この新しい鉱物を「北投石」(Hokutolite)と名づけました。岡本が採取した一部の北投石は、国立台湾博物館に収蔵されています。
北投石の色は乳白色か黄褐色が中心で、主な化学成分には硫酸バリウム(BaSO4)と硫酸鉛(Ⅱ)(PbSO4)が含まれます。北投石の最も独特なところは希少な元素「ラジウム」を含んでいることです。北投石は世界上の四千余種の鉱物の中で、唯一台湾の地名が名づけられた国宝級の鉱物で、私たちが北投石を台湾特産の鉱物と呼ぶのはこのためです。
一世紀近くの研究を経て、これまでのところ北投石の産地は北投と日本の秋田県にある玉川温泉などが確認されたのみで、世界的にとても希少で珍しい鉱物です。